魁!男の貧乏メシ 其の四 紙
10月1日

 もう10年以上も前の話になるが、僕は生意気にもニューヨークのマンハッタンに住んでいたことがある。現地の短期の映画専門学校に通っていた。

 そしてその地で僕は極度の飢餓状態に陥った。母親からの仕送りが途絶えていた。ニューヨークへの送金方法がわからないというのである。

 水道水しか飲めない日々が1週間ほど続いた。人間それだけの日数を水だけで生活するとどうなるのか。絶食3、4日目あたりから空腹感は麻痺してくる。が、だからといって、苦しみが消えるわけではない。座った状態から立ち上がると体が大きくよろめいた。エネルギー……自分の命の灯火がまさに消えかかろうとしていた。

 その日は日曜日だったのだが、僕は学校に行った。卒業制作として生徒全員が10分ほどのショートフィルムを撮ることになっていた。その撮影が間近に控えており、そのために描いた絵コンテを脚本の講師であるカトリーヌに見てもらおうと思った。

 学校のロビーでカトリーヌに会った。僕は彼女に絵コンテの説明をしていく。彼女はマクドナルドのチーズバーガーをかじりながらふむふむと相槌を打つ。説明が追えたところで彼女は言った。

「ていじ、あなたの考えたストーリーはとてもファンタスティックだわ! どうやらあなたは映画のダイナミズムというものをよく理解しているようね」
「サ、サ、サンキュー……」

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 カトリーヌよ……。そんなにも僕の絵コンテを褒めてくれるのなら、ご褒美としてそのチーズバーガーを一口分けてはもらえぬか。もしくは少し食べ残してゴミ箱に捨ててくれ。そしたら僕がそれを拾って食べるから。

 しかし、そんな僕の願いも空しく、彼女はチーズバーガーにフライドポテトまできれいに平らげてからその場をあとにしたのだった。

 その日の夕方、僕は五番街の道端に座り込み、夕闇に染まるマンハッタンの空を眺めていた。たそがれていたわけではない。ここにこうして座っていたら、道行く人が僕のことを物乞いだと思ってお金を恵んでくれたりしないかなという淡い期待を抱いていたのである。が、恵んでくれる人なんて誰もいやしなかった。

 このままでは自分は本当に餓死してしまうのではないかという危機感を感じていた。卒業作品の撮影が始まる前に。とにかくなんでもいいから口にしなくては……。

 安宿の部屋に戻ると、僕はノートの紙を一枚破り、よく揉んで柔らかくしてから口に含んだ。が、飲み込むことはできず、おえっと吐き出してしまった。餓死寸前の危機的状態にあっても人間の体は食べ物でないものは受け付けないようにできているのである。

 母親からの送金が届いたのはそれから3日後のことだった。僕はそのお金をもってすぐにステーキ屋に行った。肉をたらふく食ってやろうと思った。しかし、ほんの一切れ程度しか食べることはできなかった。ずっとなにも食べていなかったものだから、胃袋が縮小してしまっていたのである。

 前置きがかなり長くなってしまった。

 今回の企画の趣旨は、ニューヨーク時代のことを思い返してもう一度紙を食べてみようというものである。

 生きるとはいったいなにか! それは過去の未熟な自分に打ち勝つことさ。

 あれから僕だってそれなりに成長した。今ならばきっと紙だって食べられるはずだ。

 そのまま食べるのも味気ないのでマヨネーズ、ケチャップ、唐辛子で味付けすることにした。

 まずはマヨネーズ。

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 いっただっきまーす! パク。

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 おええええっ!!!!

 ダメだ、これ。自分の唾液と紙のケミカルな味が溶け合い、それが舌の上に広がった途端に体が拒絶反応を起こしてしまう。ニューヨークで紙を食べようとしたときもたしかこんな感じだったな。なんかいろいろと思い出してきたぞ。

 ロニータ……。

 そうだ、彼女の名前はたしかロニータ・エンジェル。

 学校で借りた8ミリカメラをもって宿の部屋に戻ろうとしたところにその女は声をかけてきたのだ。

「あなた、もしかして映画を撮っているの?」
「一応ね。映画学校の生徒なんだ」
「名前は?」
「テイジ・コバヤシ」
「私の名前はロニータ。ロニータ・エンジェルよ。女優志望なの」

 ロニータは濱田マリを濃くしたような顔をしていた。そしておっぱいは大きかった。

「あなたの映画に私を使いなさいよ」
「いや、急にそんなことを言われても……」
「とりあえず私の部屋に来なさいよ。いろいろ見せてあげるから」

 半ば強引に彼女の部屋に連れていかれた。そしてそこでホットココアを出され、1本のビデオを見せられた。彼女がビキニ姿でいろいろなセクシーポーズをとっているものだった。ホットココアを飲まされてそんなものを見せられたらどうなるか……。僕のあそこは当然ギンギンになっていた。

 ロニータはおもむろに立ち上がると、なぜか部屋のドアをロックする。そしてベッドに腰かけて「あ~ん」と艶かしい声を出した。

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 こ、この状況は……。

 完全に誘われている。しかし、僕はいかなかった。濱田マリはちょっとなあ……と躊躇ってしまったのである。

 どうしようもなくバカだった。過去の自分に説教してやりたい。

 贅沢言ってんじゃねーよ! 濱田マリ上等じゃねーか! ロニータはきっとあそこをグチョグチョに濡らして僕にガオ――!って襲われるのを待っていたんだ。それをいかないというのは失礼だ! 彼女を美味しくいただいて、そして「おまえを俺の映画に使ってやるから」とかなんかテキトーなこと言って毎日メシを食わせてもらったらよかったじゃないか。どうしてそうしなかったんだ、アホめ!

 気を取り直して次。ケチャップである。

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 いただきます。

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 ああ、これはマヨネーズよりかはちょっとマシかも。ケチャップのほのかな酸味が紙のケミカル味を少しだけ打ち消している。が、飲み込むことができるまでには至らず。

 最後は唐辛子。

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 これは最悪。唐辛子の辛味が紙にまったく馴染まず、紙のケミカル味がダイレクトに舌に伝わってくる。唐辛子が気管支に入ってゴホゴホと噎せてしまうし。

 過去の自分に打ち勝つことはできませんでした。

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ライター:小林ていじ

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