「椰子の音色が響く」 第一話 トッケー
4月15日

リレー小説「椰子の音色が響く」 第一話 トッケー

作:小林ていじ

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 冷たい目だった。彼女はケンに正常位で貫かれながらもまったくの無表情。ふっくらとした唇、筋の通った小ぶりな鼻、二重の大きな瞳……。それらはまるでなにかで固定でもされているかのように微動だにしなかった。肌は健康的な小麦色をしており、長く伸ばした黒髪は白いベッドシーツの上に扇状に広がっている。

 バンコクのカオサン通りにある連れ込み宿の一室にいた。ベッドだけで半分近くを占めているような狭い部屋。天井近くの壁に取り付けられたエアコンは絶え間なく室内に冷気を吐き出し続けている。

 ケンはいったいどのような経緯で彼女とベッドを共にすることになったのかまるで覚えていなかった。彼女の名前や国籍さえも知らない。カオサン通りのパブでビールを飲んでいたことだけは覚えているのだが、そこから先の記憶はひどく曖昧で、気が付いたときには彼女と体を重ね合わせていた。

「はあ……。はあ……」

 室内にケンの荒い吐息とベッドの軋む音だけが響いている。酒の酔いが残っているためか頭にズキリと痛みが走る。彼女を感じさせてやりたくて、あえぎ声を出させてやりたくて、彼女のお椀型の乳房を揉みしだきながら腰の動きをさらに激しくした。

「あ……」

 彼女が声をあげた。が、それは感じたからではなかった。

「トッケー」

「は?」

 彼女は部屋の一点をじっと凝視していた。ケンもその視線の先に目を向けると、そこにいたのは一匹のヤモリ。壁を這って素早く移動してエアコンの陰にスッと隠れる。彼女のほうに目を戻すと、口の端を少し曲げて笑っていた。

 ケンの心の中でなにかが砕けた。彼にどんなに激しく突かれても表情ひとつ変えることのなかった彼女がヤモリを見て笑っている……。惨めな思いを味わわされながら、それでも彼は機械的に腰を動かし続けた。

「ん……!」

 彼女の黒髪をぎゅっと掴んだ。それと同時に果てた。

 ケンはすぐには自分のものを引き抜かず、彼女と結合したまま、彼女の顔を間近に眺めた。彼女の顔に手を置いて強引に目を合わさせるが、彼女はすぐにぷいと顔を逸らしてしまう。終わったのなら早くどいてよ……。いかにもそう言いたげな感じである。

 膣からものがヌルリと引き抜かれると、彼女はすぐにシャワールームに入った。水の跳ねる音。ケンは自分の精液がたっぷりと放出されたコンドームを外してゴミ箱に捨てた。トランクス一枚だけを履いてベッドの淵に腰かけた。

 彼女はピンクの花柄のワンピースをまとい、ベージュのショルダーバッグを肩にかけてシャワールームから出てきた。そしてケンと少し距離を置いてベッドに腰かける。が、無言……。彼と目を合わせようとさえしない。

 彼女がなにを望んでいるのかわからなかった。もしかして彼女はタイ人の売春婦でケンがお金を払うのを待っているのだろうか……。

「ハウ……」

 ハウマッチと言いかけたところで彼女は目を合わせてきた。ケンは思わずドキリとして質問を変えた。

「ユア・ネーム?」

 彼女はゆっくりと口を開いた。

「……イズミ」

「へ、日本人?」

 彼女はうなずく。

「そうだよね。日本人だよね。ごめん。酔ってたからあまりよく覚えてないんだ。なんとなくタイ人のようにも見えたし」

 彼は雰囲気を和ませようと愛想笑いを浮かべる。が、彼女のほうはそれに少しも応じず、相変わらずの無表情だった。

「旅行で来てるんだよね? 宿はどこ? もしかして僕と同じだったりして」

 イズミはその質問には答えない。沈黙……。

 ケンは自分の心にある惨めさの正体を理解した。性欲を満たしたいわけではなかった。彼女の心の中に入り込みたかった。しかし、どんなに近くにいようとも、どんなに肌を重ね合わせようとも彼女の心の中に彼の存在はなかった。はじめて会ったばかりの女にどうしてこんな思いを味わわされるのか自分でも理解できなかった。

「帰る」

 イズミがベッドから腰をあげた。

「待って」

「なに?」

「あのさ……」

 ケンは彼女を呼び止めながらもなにも言葉が続かなかった。イズミは彼に背を向けて部屋を出ていく。パタンとドアが閉まる。ケン一人だけが部屋に残された。

 床に脱ぎ捨てられたジーンズのポケットから煙草を取り出した。一本口にくわえてライターで火をつけ、ふうっと煙を吐き出した。

 窓のカーテンを開いた。すぐ眼下にはカオサン通りが広がっている。通りの両側に並ぶレストランやパブ、歩道を埋め尽くす服やアクセサリーの露店がそれぞれに鮮やかな光を放ち、夜の中に一本の光の帯を形成している。

「……クソ!」

 足元のゴミ箱を蹴飛ばした。さっき自分が捨てたばかりの使用済みコンドームが板敷きの床に零れ出た。

つづく

次の書き手はふみもりゆたです。

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ライター:小林ていじ

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