「椰子の音色が響く」 第三話 ババぬき
5月6日

リレー小説「椰子の音色が響く」 第三話 ババぬき

作:小林ていじ

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 ケンが手にしているトランプの札は二枚。一枚はハートの六。そしてもう一枚はジョーカーである。対峙するタケオの手持ちの札は一枚だけ。彼が次にケンのどちらの札をとるかによって勝負は決まる。

 テーブルの上には大量の札が捨てられていた。その隣にはプラスチックの灰皿があり、煙草の吸殻が山盛りになっている。天井では扇風機が大きな羽をまわして室内の生ぬるい空気をかきまわしていた。

 ケンは煙草を口にくわえてライターで火をつけた。ふうっと吐き出された煙が室内を上っていき、扇風機の風にかき消される。

「早く引けよ」
「ちょっと待てって」

 タケオはケンの二枚の手札をじっと睨み付ける。ケンはハートの六をスッと少し上げた。フェイントのつもりだった。タケオはニヤリと笑みを浮かべた。

「こっちだ」

 そう言って彼が引いたのはハートの六。

「よし、俺の勝ち!」
「クソ!」

 ケンは残ったジョーカーの札をテーブルに叩きつける。

「またケンの負けか」
「弱すぎだよ」

 その勝負を見守っていたヤスシとキヨタカが言った。彼ら二人は勝負を先に勝ち抜けていた。

 カオサン通りにあるゲストハウスのドミトリールーム。壁に沿うようにして二段ベッドが何台も並べられており、その一角は女性用にカーテンで仕切られている。そしてその中央に四人掛けのテーブル席が設置されている。

 部屋にいるのは彼ら四人だけ。いずれも大学生くらいの年頃に見えるが、実際に大学生なのはタケオ一人だけである。ケンは大学を二年で中退していたし、ヤスシとキヨタカの二人は日本でフリーターをしているらしい。が、お互いにそれ以上のことについてはなにも知らなかった。苗字や年齢も知らない。お互いの素性はあまり詮索せずに下の名前で呼び合う。それがこのゲストハウス内での不文律になっていた。

「もう一回やるか?」
「やらないよ。いい年してババぬきなんてくだらない」
「ケンからやろうって言い始めたんだろ」

 ケンは煙草を灰皿でもみ消してから自分のベッドに横になる。窓際の二段ベッドの下段。窓から西日が差し込んでベッドの上に日なたを作っている。彼はそれを避けるようにして寝返りを打ち、枕元にあった『夜のバンコク』という風俗情報誌を手にとって適当にページをパラパラと捲った。

 彼がバンコクに来たのはゴーゴーバーのためだった。ゴーゴーバーというものについては香港で知り合った日本人から聞かされた。ステージの上でビキニ姿の女性が何人も踊っており、胸も尻も触り放題なのだという。その話を聞いた翌日、彼は香港からバンコク行きの航空券を購入していた。

 しかし、今、こうしてバンコクにおり、ゴーゴーバーについての記事を眺めていてもその内容は少しも頭に入ってこなかった。イズミのことで頭がいっぱいになっていた。彼女と話がしたかった。好きな音楽の話とか、好きな映画の話とか……。

 タケオたちの話し声が聞こえてきた。

「今夜あたり行くか?」
「どこに?」
「決まってるだろ。ゴーゴーバーだよ」
「俺はパス。そういうのが目的でバンコクに来たわけじゃないから」
「嘘つけ。行きたいくせに」
「よし、それじゃあ、今夜ゴーゴーバーに行く奴はこの指とーまれ!」

 タケオの立てた人差し指をヤスシとキヨタカが掴む。しばらくしてタケオがケンのほうを向いて訊いた。

「おーい、おまえはどうすんだ?」

 ケンはそれを無視するかのように寝返りを打って彼らに背を向ける。イズミのことを考え続けていた。彼女とは会ってすぐにセックスをしてしまっている。が、彼がほしいのは彼女の体ではなく心……。

「ふんっ」

 彼は自分のその考えを自分で笑った。恋だとか愛だとかそんなものは自分とはいかにも不似合に思えた。

「あと十秒だけ待ってやる。十……、九……、八……、七……」

 イズミのほうだってケンのことをただの行きずりの男としか考えていないだろう。セックスをしている最中の彼女の冷たい目のことを思えば、彼に対してなんら特別な感情を抱いていないことは明らかである。

「六……、五……、四……」

 それに連絡先の交換もしていないし、まだバンコクにいるのかどうかもわからない。再会することさえも難しいだろう。

「三……、二……」

 イズミのことは忘れよう。そう心に決めて、ケンはベッドから身を起こした。

「一……」

 タケオがそこまでカウントダウンしたところで、ケンはいちばん上のキヨタカの人差し指を力強く掴んだ。

つづく

次の書き手はふみもりゆたです。

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ライター:小林ていじ

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